論点メモ:固有必要的共同訴訟の判断基準

はじめに

今回から私が勉強中に気になった論点についての記事を不定期に書いていこうと思います。

基本的には自分用の勉強メモないし備忘録のような形で、網羅性や完全な正確性より、試験対策の観点から個人的に重要だと思うポイントを中心に簡単に書いていきます。

主に自分だったらこう書く、こう理解しているというものです。試験対策の観点から、できる限り図やイメージで記憶、理解するようにし、記憶と試験での時間短縮の観点から論証を可能な限り短くすることを意識しています。そのために不正確な点が出てくるかもしれませんが、間違いや改善点があれば教えていただけると幸いです。ということで、今回はその第1回です。

固有必要的共同訴訟の判断基準

前提

ここは前提部分なので簡単に書きます。

共同訴訟は原告又は被告が複数となる訴訟形態です。

①通常共同訴訟(38条)②必要的共同訴訟(40条)に分かれます。

①通常共同訴訟は、個別訴訟が可能であるものを一定の要件(38条)をみたす場合に共同して行うことができるとするものです。

一方、②必要的共同訴訟合一確定の要請があるものです。

②必要的共同訴訟

<②-1>固有必要的共同訴訟<②-2>類似必要的共同訴訟に分かれます。

 

<②-1>固有必要的共同訴訟<②-2>類似必要的共同訴訟はいずれも合一確定を目的としていますが、その意味は異なります。

実体法上の管理処分権(又は法律上の利益)が帰属する者に当事者適格(訴訟物たる権利関係につき、訴訟を追行し、本案判決を受け得る資格)があることを前提に以下のように考えています。

<②-1>固有必要的共同訴訟

  1. 管理処分権が複数人に共同に帰属
  2. 全員が当事者となってはじめて当事者適格が認められる
  3. 全員による訴え提起・応訴・訴訟追行の共同が強制される
  4. したがって、合一確定が実現できる

<②-2>類似必要的共同訴訟

  1. 管理処分権が各自に帰属
  2. 一部の者による訴え提起・応訴・訴訟追行自体は当事者適格の点では問題ない
  3. もっとも、既判力拡張(115条1項2号~4号)による既判力防止の必要性
  4. 合一確定の要請により必要的共同訴訟のルール(40条)が適用される

 

 

問題の所在

以上、共同訴訟の分類を簡単に確認しました。

固有必要的共同訴訟にあたる場合、訴え提起・応訴・訴訟追行を全員で行わなければなりません。誰かが欠けた場合、当事者適格という訴訟要件を欠くために訴えが不適法却下となりえます。

そこで、固有必要的共同訴訟にあたるかを判断するための判断基準が必要となるわけですが…。

判例と学説の基準

以下、B(理由づけ)C(規範(要件)、結論、考慮要素)とします。

<判例>は基本的に

C1:実体法上の管理処分権を基準とします。

<学説>は

C1を重視するのが通説ですが、

C2:訴訟政策的な考慮

を加味するのが近時の有力説といわれています。

 

どのように論証するか―平成28年採点実感から(ネタバレ注意!)

規範(C)

では、どの立場にすべきでしょうか。

ここで、平成28年司法試験民事訴訟法の採点実感を参照します。

この訴訟共同を要する固有必要的共同訴訟に該当するか否かを検討するに当たっては,当事者の管理処分権を基準としつつ訴訟政策的な考慮を加味して判断すべきとの考え方が有力であり,そのことを指摘する答案が多かった。

ということで、近時の有力説(C1+C2)が多いようです。

これは予備校や市販の論証集でこの立場を前提に学習している人が多いからかもしれません。

訴訟政策的な考慮」をすべきことを一般論で触れるのであれば,本件事案において
どのように考慮すべきなのかを,例えば,総有関係の確認を対内的に請求する場合と比較して,本件のように総有関係の確認を対外的に請求する場合には,一回的解決の必要性が特に高いと
言えるのかなどを具体的に検討して理由付けることができれば高く評価されることになる。

C2:訴訟政策的観点について、「触れるのであれば」というように仮定的な表現がされていることから、基準としてC2を挙げたうえで具体的な検討、評価をすることができれば加点事由となりそうです。

もっとも、訴訟政策的観点の中身がよくわからず、単語だけ覚えているだけの状態で適切なあてはめをするのは難しそうです。

判例や従来の通説がC1:実体法上の管理処分権を基準とすることや採点実感での上記仮定的表現を考慮すると、判例や従来の通説の立場で書いても不利益はなさそうです。

むしろ

個別訴訟を許容すると判決の内容が構成員ごとに区々となり,紛争解決につながらないから,合一確定の必要があるということのみを指摘し,固有必要的共同訴訟になるとする答案もかなりの割合で見られた。しかし,そもそも,合一確定の必要があるということを述べるだけでは必要的共同訴訟とすべきであるとは言えても,訴訟共同まで必要とする固有必要的共同訴訟となることの説明に直ちにはならないことに注意すべきである。また,このような答案は,管理処分権能による説明を補強材料とせず,訴訟政策的な考慮だけで固有必要的共同訴訟とすることとなるから,それに応じた丁寧な考慮要因の分析が必要となる。民事訴訟において,判決の内容同士が実際上矛盾する事態は往々にして生ずる中で,総有権確認訴訟についてはなぜ構成員ごとに判決が区々となると問題があり,固有必要的共同訴訟になるとまで解する必要があるのかを,実体法上の法律関係を踏まえつつ具体的に説明しなければ説明としては成功していない。

とあるように、C1:実体法上の管理処分権について分析すべき箇所が多い(=配点割合が高い)と考えられる記述があります。

つまり、判例や従来の学説(C1)を基準に、実体法上の法律関係を丁寧に分析することで合格点をとることが十分に可能であると思われます。近時の有力説(C1+C2)の立場にたつかどうかでは点差はつかず、C1に関する配点が高く、C2でそれなりに適切なあてはめをしなければ加点されないことをかんがえると、C2でうまくあてはめをすることができそうな事情でなければ、最初から判例や従来の学説(C1)をとれば十分と考えています。

したがって、規範部分は

C:実体法上の管理処分権を基準に判断する

とします。

理由づけ(B)

多論点型の出題がされた場合、典型論点については理由づけを省いた方が結果的に得点を最大化できるかもしれません。

もっとも、民事訴訟法は理論が重視され、複数の論点を1題で処理することも多くないと思われるので、理由づけをしっかり書いて加点を狙うべきだと考えます。

固有必要的共同訴訟の判断基準は出題可能性が高く、メイン論点でも前提論点でも出題されうるので、典型論点の部類だと思いますが、ここも平成28年採点実感をもとに1~2行程度の理由づけをおさえるとよさそうです。

しかし,なぜ管理処分権を基準とすべきなのかが明らかにされなければ,固有必要的共同訴訟に当たる理由やその判断基準を適切に分析したことにはならない。
例えば,「訴え提起は処分行為に類似するので,管理処分権を基準に判断すべきである」といった説明が必要であり,そうしたものがなければ,単に結論を述べるのと大きな差はないと言える。さらに,なぜ,訴え提起が処分行為に類似すると言えるかについても,敗訴した場合には,問題となった権利を処分したのと類似する状態に陥るからであるといった説明を何らか工夫しておかなければ,理由を飛躍なく述べたものとは言い難い。

※上記のように最近の採点実感は丁寧に書かれていて、論証を作るのに適した記述があったりします。考査委員がどの程度の説明であれば加点するのかを知るのに採点実感はとても役に立ちます。今回の論点はこれを参考にできそうですが、仮に採点実感で言及されていない論点についても、採点から類推して加点の閾値を超える論証を作ることができるような気がします。

採点実感の記述の意味を考えたうえで、これに基づいた短い理由づけを考えてみました。同一性を害しないと思われる限度で表現をととのえています。また、理由づけで得点できるのはせいぜい1点か2点か、その程度だと思っています。そのため、復習のときの記憶・理解の負荷を下げるため、また本番での時間短縮のため可能な限り短くしようとしています。

B:敗訴は訴訟物たる権利法律関係の処分と似た結果をもたらすため、訴え提起は処分行為に類似する

「敗訴の場合=訴訟物の処分と同様」→「訴え提起=処分行為に類似」というように、実際は理由づけの中にも「理由→結論」みたいな関係がありますね。採点実感はそれを文章で説明しているので、それを統合してまとめておくと理解しやすいのではないかと思います。

なお、上の言葉の意味は単に覚えるよりは、一度自分で具体例を想定すると理解・記憶がしやすいと思います。

以下は、上記の理由づけを書く前提としての理解をできるだけ言語化したものです。

(ただの作文なので不正確な点があるかもしれません…。)

例えば、実体法上の管理処分権が共有者全員に帰属するはずの共有物の共有権を共有者の一人だけが関与する訴訟手続において訴訟物としたうえで敗訴した場合は、(あくまで訴訟の結果なので処分行為をしたわけではないものの、)実質的にみてみると、管理処分権が全員に帰属するのに、一部の共有者が勝手に相手方に共有物を処分(たとえば、共有物を相手方にただであげたのと同じようなことになる)するのと似たようなこととなる。

そうだとすれば、そのような敗訴の可能性がある以上(「敗訴の場合=訴訟物の処分と同様」)、訴え提起をすること自体が処分行為そのものに似ている(「訴え提起=処分行為に類似」)。

訴え提起が処分行為と同様の効果となるのであれば、実体法上の管理処分権が帰属する者全員を訴訟手続に関与させないと訴訟手続に関与していない者の管理処分権が害されることとなり、また実体法上法律関係の矛盾や混乱を招く(ここらへんは理由づけのところではっきり書いてないですが、いちいち書いていると終わらないので省略しているということになります)。

そうだとすれば、実体法上の管理処分権が帰属する者全員による訴え提起・応訴・訴訟追行を強制して、合一確定を図るのが適切であるから、実体法上の管理処分権を基準として固有必要的共同訴訟にあたるかを判断すべき(結論)である。

以上のように小さい字で書いたとおり、長く書こうと思えば(正確性はともかく)、同じ内容を長くかけなくもないわけですが、同じ内容であれば短く書けるよう準備していれば足りると考えています。内容の理解度に応じて、長く書こうと思えば書けるということになりそうですが、結局短い時間の中で長々と理由づけを書くことは得点効率が下がると思われます。

もっとも、学習の過程で理由づけの理解度を高めておくと、典型論点をひねったタイプの現場志向型論点に対応出来たり、あてはめの説得力や正確性にプラスに働くのではないかと思います。

というわけで、以上が理由づけです。

問題の所在(A)

前置き

問題の所在、問題提起、論点の導入的な箇所はAと表記したいと思います。

Aとしている意味は特にありませんが、A→B(理由づけ)→C(規範)という風に考えると論証の流れがABCとなってなんとなくわかりやすいのでそうしています。

あえてこじつけるのであれば、Aim→Because…(?)→Criteria,Conclusionですかね。多少無理がありますが…。

問題提起

A:本件訴訟は固有必要的共同訴訟にあたるか。

場合によって書き方が変わると思いますので、ちょうど良いのは思いついていませんが、とりあえずこんな感じにしています。

具体的には、固有必要的共同訴訟にあたる場合の効果(E=Effect)を問題にあわせて組み込むのが良い気がします。全員で訴え提起・応訴・訴訟追行をしなければならないとか、必要的共同訴訟の審判ルール(40条)が適用されることなどですね。

また、事案の問題となる点を簡単に引用する場合もあるかと思います。

たとえば、

本件訴訟が固有必要的共同訴訟だとすると、<事案>が<必要的共同訴訟のルール>に反するため、訴えが不適法却下されうる(ここは問題によります。)。

そこで、本件訴訟は固有必要的共同訴訟にあたるか。

という感じになることもありそうです。

とにかく、事案の解決を見据えて、法律効果(E)を意識しながら問題提起をするといいのではないでしょうか。

注意点

問題提起の際に「固有必要的共同訴訟か通常共同訴訟かどうかの判断基準が問題となる」という趣旨の内容を書くと不正確となるかと思われます。

実体法上の管理処分権が帰属している者は全員で訴訟手続に参加しなければならないため、原則として固有必要的共同訴訟だということになると、実体法上の管理処分権が全員に帰属していない(Cにあたらない)場合というのは、類似必要的共同訴訟になるかもしれませんし、個別訴訟でもよい場合かもしれません。

通常共同訴訟となるのは38条の要件をみたす場合にそれができるというだけであって、固有必要的共同訴訟ではなく類似必要的共同訴訟でもない(つまり必要的共同訴訟(40条)ではない)ということになったら直ちに通常共同訴訟(38条)となるのではなく、合一確定の必要もないので個別訴訟が許され、38条の要件をみたせば通常共同訴訟にできるにすぎません。

まとめると、固有必要的共同訴訟ではなかったら通常共同訴訟となるという関係に体系上なっていないので、「固有必要的共同訴訟か通常共同訴訟かどうかの判断基準が問題となる」という書き方をすると体系の理解が不十分だと思われるリスクがあるということです。

まとめ

論証例

本件訴訟は固有必要的共同訴訟にあたるか。

敗訴は訴訟物たる権利法律関係の処分と似た結果をもたらすため、訴え提起は処分行為に類似する。

そこで、実体法上の管理処分を基準に判断する。

メタ情報

 

  • 出題頻度→高いと思います。基本的な典型論点です。平成28年司法試験に出ており、令和元年予備試験論文でも前提論点として出た気がします。
  • あてはめのポイント

→C:実体法上の管理処分権がどうなっているのかについて分析するため、配点は高そうです。ここは民法等の実体法の理解が重要になりそうですね。総有権、共有権、共有持分権等々判例があるので、これを参考にすることができそうです。

  • 論証例は原則論だけですが、実体法上の管理処分権を基準とすると結論が不当となりうる場合がありそうです。その場合は訴訟政策的観点を加味するということをC2として加えて判断する、判例のように不可分債権、不可分債務、保存行為と構成するなどして、訴権の保護や訴訟経済といった利益に配慮する必要があると思います。

最後に

第1回ということで、基本論点にもかかわらず長々と書いてしまいました。それでも網羅性や正確性は十分ではないのですが、論証の勉強の仕方や作り方、採点実感の活かし方など自分が意識している点にもさりげなく触れたつもりです。多少なりともお役にたてれば幸いです。

長々と書くと自分の勉強時間との兼ね合いもありますので、記事自体もよりコンパクトにできればと思います。

民事訴訟法との関係では、債権法改正との関係で債権者代位訴訟の絡む論点などの記事をそのうち書けたらと思います。

以上です。

 

 

 

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